北鎌倉の明月院から少し山の方へ坂を上がったところに、小さなカフェがある。 あたしはそのカフェで働いている。 いつも夕暮れの頃、店の前を通る人がいる。 手に本を抱えていたり、トートバッグを持っていたり。 髪は癖毛なのか、それとも癖毛っぽいパーマなのか。 ただ歩いているところを見掛けただけだったのに。 その立ち居振舞いの美しさに一度目を奪われてから、彼が通るのを心待ちにしている。