午後4時、スピーカーから閉会宣言が聞こえてきた。

 私は窓を塞いでいた大きな黒い布を畳みながら、ひそかに清水くんの姿を探す。閉会宣言より1時間半前に営業を終了したお化け屋敷は、片付けが半分くらいまで進んでいた。

 通路の壁が男子の手で次々と教室の後ろへ運ばれる。その壁の集積所の横に、清水くんがいた。片付けを手伝いもせず、浮かない顔で窓の外を眺めている。それを咎める人はいない。

 なにを考えているのだろう。

 企画書は完璧だったはずだ。それが最後にこんなアクシデントで、閉会前に閉鎖しなくてはならなくなった。そのショックでプライドが粉々になってしまったのだろうか。

 こういう清水くんの姿を見るのは、なんだかつらい。

 どんなときも余裕で成功するのが当たり前という顔をしていてほしい。

 まぁ、それが癪にさわるときもあるけれども、今の彼はとにかく痛ましくて見ていられなかった。

 綾香先生は他の教育実習生が迎えに来たため、壁の崩壊から5分もしないうちにお化け屋敷を去った。私はあのおぞましい手の感触を思い出しただけでも、嫌悪感でいっぱいになるのに、綾香先生は怒るどころかクラスの男子をかばってくれたのだから、やはりすごい人だと思う。とても敵わない。

 もし綾香先生がこの場にいたらどうするのかな。そんな疑問が浮かぶ。

 さっきは直すと申し出て、清水くんに断られていたけど、その後は放っておくのだろうか。それとも話しかける? いや、近寄りがたいオーラ出しすぎだし、さすがの綾香先生も放置するはず。

 私は畳み終わった黒い布を大きなダンボール箱に詰めた。そこへ高梨さんが近づいてきた。

「ねぇ、後夜祭出るよね?」

「はい、一応そのつもりで家にも遅くなると言ってきましたけど」

「そっか。よかった。清水くんは相変わらず機嫌悪そうだけど、このまま帰っちゃったりしないよね?」

「それはどうだか……私にはわかりません」

「んー、困ったヤツだなぁ」

 高梨さんは唸りながら、スタスタと清水くんのほうへ向かって行く。驚いて「あ!」と声を上げたが、高梨さんは気に留めることもなく、堂々と清水くんの前に立った。

「おつかれ! 後夜祭、ちゃんと出てよ?」

 清水くんが面倒くさそうに高梨さんを見る。

「最初からそのつもりだけど? なんで?」

「いや、アンタが帰っちゃうと寂しがる女子がいっぱいいるからさ」

 それだけ言うと高梨さんは清水くんに関心をなくしたかのように、さっさと次の仕事へ向かった。

 残された清水くんはまた不機嫌な顔で空を眺める。

 私はあっけに取られていたが、教室に入ってきた担任の呼びかけで我に返った。