メールのやり取りはあるが、雅輝くんから電話してくれるのは滅多にない。
 何か急用なのかと心配になってしまう。

 そんな私の態度に先輩が苦笑する。

「電話? 出ていいよ」
「あ、うん。ごめん、ちょっと待っててね?」
「はいはい」

 店内は狭い。
 店の外に出るかここで話すしかない。
 急用だったらいけないと、まず通話ボタンを押してみる。

「も、もしもし?」
『悪いけど、明日会う約束やっぱりだめになった』
「……わかった。仕事なんだもん。しょうがないね」

 3度目のデートキャンセル。
 いつもならメールで連絡してくるだけなのに、こうして電話してきたということは雅輝くんなりに悪いと思っているのだろう。
 会えない寂しさはあるが責める気にはなれない。

「七海、これ、こっちに置くよ?」
「あ、うん」

 先輩が近くにあった紅茶のカップを端によせてくれる。
 私のひじが近くにあってカップをひっかけてこぼすとでも思ったのだろう。
 先輩に向かって頭を軽くさげる。

 電話しているのに普通に会話してしまったせいで、雅輝くんの声が少しだけ低くなった。

『……誰かと一緒なのか?』
「あ、うん。先輩と……」
『先輩?』

 不審げな声に先輩のこと話してなかったことに気づく。
 一年近くも付き合っていたのに、偶然先輩の話しにはならなかったのだろう。

「うん、今日は先輩に会いに来たの」
『会いに?』
「七海電話まだ?」
「ご、ごめ、もう終わるよ」

 先輩にせかされて、少しだけ焦ってしまう。
 用件はもう聞いたので、雅輝くんもすぐに電話を切るだろう。

『男の声に聞こえるんだけど?』
「うん、先輩は男の人だよ?」

 雅輝くんの質問に正直に答える。

『何で男と会ってる?』
「なんでって……いけなかった?」

 意外な言葉に驚いてしまう。
 私が誰と会っても、その話しにはいつも無関心な態度だった。
 束縛するのも、されるのも嫌がる人だ。
 私が友人と会っても気にしない。

『いや、かまわない。じゃあ』

 短い言葉に返答する間もなくすぐに電話は切れた。
 あきらかにいつもより低い声。

 嫉妬。

 一瞬だけそんな言葉が浮かんだけれど、雅輝くんにはそぐわない言葉だ。
 自分は仕事で忙しいのに、私が暇そうにしているのが不愉快だったのかもしれない。
 だとしたら悪いことしてしまった。
 家に帰ったら謝りの電話を入れてみよう。

「彼氏?」
「うん。明日のデート仕事で行けないって連絡だった」
「ふーん……」

 通話のやり取りに、さらに心配になったのかもしれない。
 その後、先輩は雅輝君について、あれこれと質問攻めにされた。