君はおかしい。
ワケわからない時にいきなり笑ったり、落ち込んだりする。
そんな君を、僕は理解出来そうにない。



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「……あ。神谷さん!今帰るんですか?」



背後からの突然の声に足を止める。
今日の仕事も終わってやっと帰れると思ったら……聞き慣れた低めの声。



「………なんだ、小野くんかよ」
「神谷さんひどっ……!なんだってなんですか!?」
「なんだ、はなんだ以外のなにものでもないよ。バカなの?」
「でましたよっ!さらっとツン発言……」



そう言いながらも俺のとなりに来てくれる。
一緒に帰るつもりなのか分からないけど俺に微笑みかけてくる小野くん。
………いつからだろう?この笑顔に安心するようになったのは。



「なにその顔………小野くん、気持ち悪っ……」
「もぅ!!神谷さんはツンばっかりだなぁ……可愛い☆」
「うっさいわっ!!気持ち悪いこと言うなっ!!」
「えー?褒めてるんですけど」
「先輩褒めるのなんか100億年早いわ」



そう言って小野くんの大きな背中をぐいぐい押していく。
……どうしよう。こんな顔、絶対見せられない。
俺に向けられる一言一言がすごく嬉しくて、恥ずかしくて……でも素直になれなくて。
……気付いたら顔があつくなっていた。
だから、本当に気持ち悪いから言ってる訳じゃない。……時々気持ち悪いときもあったりするけど。



「………神谷さん」
「んー?なに?」
「神谷さん」
「だからなんだよ?小野くん」



……どうせ小野くんのことだからいつもみたいにバカなこと言うと思うけど?
俺はそれなりに空気の読める優しい先輩だから……今回はツッコミ無しで。
俺のこと罵って!!……って言える小野くんだから罵られに来るはずだ……。


でも、小野くんが言った言葉は予想と大きく外れた。


「神谷さんにはー……俺ってどういう風に見えてますか?」
「は?」
「んーと………神谷さんにとって、俺ってどういう存在ですか?」



思考が一時停止した。
小野くんの言ってる意味が分からない…………………の、前に。
そう言われて、なんで俺の鼓動は早くなっているんだろう?
だんだん身体があつくなっていくのが分かった。



「………神谷さん?」
「…ちょっ……!小野くん!顔、近いよ……っ……!」
「だって神谷さんが下向いてて答えてくれそうになかったから」
「っ……意味わかんねぇーよ……」



……聞こえてしまう。こんなに近かったら…俺の煩い心臓の音が……。
離れてよ………聞かれたくない。小野くんに……知られたくない。