「……ここはどこ?
私は本当に元の世界に戻ったの?」


先程の老婆の部屋とは一変した風景にルシアは戸惑う。
違う場所に来ている事は間違いないが、そこはルシアには見覚えのない場所だった。
あたりを見渡すルシアの目に、一軒の赤い屋根の家が映った。
とにかく、ここがどこなのかを尋ねようと、ルシアはその家を目指して駆け出した。




「すみません。誰かいらっしゃいませんか?」

部屋の中に向かってルシアは声をかけたが返事はない。
耳を澄ますと、奥の部屋で何者が言い争う声が聞こえる。
ルシアは恐る恐るその声の方へ歩いて行った。



「おまえ達なんて…この世界なんて…」

部屋の中には三人の男女がいた。



「誰だ!おまえは!」

敵意のある声が飛んだ。
黒いローブの男がルシアに気付き、なにやら不気味な呪文を唱え始めた。



「あぶないっ!逃げて!」

女性の叫び声に、ルシアはとっさに姿見の後ろに身を隠した。



「あぁぁぁぁぁぁーーーーーーっっ!!」



男の指先から光りのようなものが噴き出し、それが姿見に当たって男の身体に反射した。
それと同時に、男は地の底から響き出すような苦しげな叫び声をあげ、男の身体が足元から人形の姿へと変わっていく…
ルシアがその怖ろしい光景に立ち尽していると、ミシミシといういやな音が耳に届いた。



(この音は…?!)

ルシアの思考を打ち破るように、彼女の目の前の鏡が軽い音を立てて割れ、その破片が弾け飛んだ。



「うっ…」

鋭く尖った鏡の破片はそこにいた男女の身体を貫いた。
二人は、最期の言葉を口にする間もなくその場にばったりと倒れ込んだ。
きらきら輝く鏡の破片の根元から、真っ赤な血が噴き出しあたりを血の海に変えて行く…




「ち…畜生…おまえのせいで…」

腰のあたりまで人形に変わった男が、搾り出すような声で不気味な呪文を唱えている。




「い……いやぁぁぁ~~~~!
レヴさん、セルジュさん助けてーーーーー!」



ルシアの絶叫が部屋の中に響いた。
恐怖で動かない足を必死で動かし、ルシアは部屋を出た。



(逃げなくちゃ…
レヴさん達の所へ戻らなきゃ…)

震える身体で…うまく動かない足で、ルシアは懸命に外を目指した。
ここがどこかもわからないまま、ルシアは歩いた。
ただ、あの怖ろしい家から少しでも遠くへ離れたいと思いながら…






やがて、世界は唐突に時を止めた…