「とても綺麗だよ、ミランダ。」

「ありがとう、テリー!嬉しいわ。
あなたのお母様は本当にお裁縫がお上手なのね。」

テリーの母の手作りのヴェールをかぶり、ミランダは姿見の前で微笑んだ。
純白のレースのヴェールには、繊細な絹糸の花模様が刺繍されている。



「そう言ってもらえると母も喜ぶよ。
そのヴェールを作ってる間も母はすごく幸せそうな顔をしていたよ。」

「テリー…私、幸せだわ。
大好きなあなたと結婚出来るだけじゃなくて、あなたのお母様にもこんなに優しくしていただいて…」

「僕も幸せだよ。
世界一の幸せ者だよ。」

ミランダとテリーは 姿見をのぞき、来週に迫った結婚式に想いを馳せていた。

雪のように真っ白はウェディングドレスに身を包んだミランダはどれほど美しいことだろう…
テリーの目にはその姿が見えるようだった。

その時、二人の後ろに不意に男の影が現れた。



「おまえはっ!」

二人は、揃って後ろを振り返る。



「……ミランダ…まだ、こんな奴とつきあっているのか…」

黒いローブの男は低い声で不服げに呟いた。



「ラスティ、あなたにはもう何度も話した筈よ。
私達は来週には結婚するの。
お願いだから私につきまとうのはもうやめて。」

「ミランダ…君はまだそんなことを…
わかってるのか、ミランダ。
僕は、偉大な魔法使いなんだぞ。
僕と結婚すればなんだって手に入る。
君が望むなら、この世界のすべてが君のものになるんだぞ。」

「私はそんなものいらないわ。
テリーさえいてくれたら、他には何もいらない…」

「ミランダ…僕も同じ気持ちだよ。
……これでわかっただろう?ラスティ。
君に勝ち目はない。さぁ、もう帰ってくれ。」

冷ややかな視線で二人がラスティを睨みつけた。



「……君達……僕を本気で怒らせるつもりなのか?
僕が本気で怒ったら、どうなるかわかってるのか?」

「私を醜いヒキガエルにでも変える?」

「僕はミランダがどんなことになっても彼女の傍を離れはしない!
やれるものならやってみろ!」

「くっ…」

ラスティの拳に力が入る。
噛み締めた唇は血の気を失って白くなり、その身体は小刻みに震えていた。