ルシアは、暗い夜道を走り続けた。
闇の中も少しも怖くはない。
一刻も早く、その魔法使いに会ってこのおかしな世界から抜け出したい!
ルシアの想いはただそれだけだった。

細い脇道を走り、次第に明るくなってくる闇の中に、ルシアは一軒の家をみつけた。



(きっと、ここだわ!)



ルシアは、ノックもせずにその扉を勢い良く開け放つ。

「お願い、私を帰して!
私を元の世界に帰して…!」

泣き声にも似たルシアの叫びに、部屋の奥から老婆がのっそりと顔を出した。



「誰じゃ、こんな早くにいきなりおしかけて…」

「あなたが魔法使いのお婆さんね!
お願い!
私を元の世界に帰して!今すぐに…!」

ルシアは老婆の身体にとりすがり、同じ言葉を繰り返す。



「違う世界から迷いこんでしまったということか…」

「お願いよ……」

ルシアの様子は尋常ではない。
それを見て取ったのか、老婆は少し微笑みながら呟いた。



「違う世界へ飛ばす魔法は難しいんじゃぞ。
まぁ、わしは優秀な魔法使いじゃから出きんことではないが…
その代わり、報酬は高いぞ…」

「ほ…報酬…?
わ…私、お金は…」

「わしのほしいものはそんなもんじゃない。
そうじゃな…では、おまえさんの寿命を50年分程いただこうか。」

思いがけない言葉に、ルシアは目を丸くした。



「寿命を?!
で…でも、私…どうやったら、寿命をあげられるのか…」

「そんなことなら心配は無用じゃ。
わしが魔法でいただくからな。
しかし、寿命を取られたら…元の世界に戻ってもあまり生きられないかもしれんぞ。
いや、下手をすれば着いた途端に御陀仏ってことだってある。
……それでも良いのか?」

老婆の言葉に、ルシアは息を飲んだ。
ルシアは、一瞬、躊躇っているような表情を見せたが、それからすぐに老婆の方に顔を向けた。



「ええ、構わないわ!
元の世界に帰れるのなら、私、どんなことも怖くはないわ!」

「そうか…おまえさんがそこまで言うのなら、さぁ、こっちへ」

老婆は、奥の部屋にルシアを呼び入れた。
その床には、びっしりと不思議な呪文の刻まれた魔方陣が描かれている。

ルシアをその中央に立たせると、老婆は低い声で呪文を唱え始めた。
呪文と共に魔方陣が白く妖しいもやに包まれ、次第にそれが竜巻のように渦を巻き始める。
やがて竜巻の渦は回転の速度を上げ、一瞬でどこかにかき消えた。
……そこにルシアの姿はなかった。



「相変わらず、見事な腕前じゃ。」

老婆は満足げな笑みをたたえ、そう一人ごちた。