(もういやっ!!
こんな所にいるのは、もうごめんだわ!)



狭く薄暗い洞窟の中から何日もしとしとと降りやまない雨を疎まし気に見上げながらも何も出来ない日々…、そんな日々が長引くうちに、ルシアの心の中で何かが破裂した。

ルシアは、雨の中に飛び出した。



(きっと、この雨は、私が元の世界に帰るのを邪魔してるんだわ。
レヴさんやセルジュさんもあてにはならない…
あの人達が言ったことも本当かどうか、わからないわ。
もしも本当に私と同じ境遇なら、あんなに落ちついていられる筈がないもの。
そうだ…もしかしたら、何か別の意図があって私に近付いて来たのかもしれない…)

病んだルシアの心にはありもしない疑惑が、黒いもやのように渦巻いていた。



雨の中をただひたすらに走る。
夜も昼も構わずに…

身体が芯から冷えていく…
でも、もうどうなっても構わない。
こんなわけのわからない世界にいるくらいなら、いっそ死んだ方が良い…
心の安定を失ったルシアは、止まらない涙を拭おうともせず、街道を走り続けた。



雨はいつの間にかあがってた…
道端に倒れ込むルシアに気が付いた近所の女性が、ルシアに声をかけ家に連れ帰った。



「さぁ、おあがり。」

何日かぶりに口にする食事に、ルシアの瞳からはさらに熱い涙が溢れた。



「どうしたんだい、あんた。
ずいぶん、疲れてるみたいだけど…」

「あの…私……」

ルシアはただ泣くばかりで、心の中の感情は言葉にならなかった。



「なんだかわからないけど…きっとずいぶんと大変なことがあったんだね…
今夜はここでゆっくりしてお行き。
そうだ…気休めにしかならないかもしれないけど、この先にちょっと変わったお婆さんがいるんだよ。
私は会ったことはないけど、なんでも魔法使いらしくって、探し物のありかを探してくれたり、ちょっとした魔法をかけてくれるらしいよ。
あんたも、悩みがあるのなら明日そのお婆さんに相談してみたらどうだい?」

「魔法使い…!」

(そういう人なら、私を元の世界に戻してくれるかもしれないわ!)



ルシアは老婆の家の場所を聞くと、女性が止めるのも聞かずそのまま外へ駆け出して行った。