私は森の中を進んでいた。
森はどこも似たようなものだが、なんとなくここへは来たことがあるように思えた。

しばらく歩くと、不意に拓けた場所に出た。
目の前には大きな湖が広がった。



(ここは……!!)



そうだ。
私は、馬車から目にしたこの風景にひかれ、馬車を降りたのだ。



(確か…こっちだ…)



そこに今、馬車がいるはずもないが、私は、ここへ来た時とすっかり逆のルートを辿っていた。



「レヴ様!!」



血相を変えて私の元に走りこんできたのは、うちの御者のピエールだった。



「ピエール!
探しに来てくれたのか?!」

「レヴ様!ご無事で良かった…!
今夜、みつからなければ、お屋敷に人を呼びに行こうと思っていた所でした。」

ピエールの話に私はおかしなものを感じた。



「ピエール、まさかあれからずっと探していたのではあるまいな?」

「探していましたとも!
もしかしたら、お迷いになってどこかで休んでおられるのかもと思いまして、夜は馬車の所でお待ちしておりました。
朝になったら、きっとすぐにみつかるものと考えていたものの、まるでお姿が見えませんので、さすがに心配になりまして…
まさに、今、お屋敷に戻ろうとしていた所でございます。」

「ピエール…
私がいなくなったのはどのくらいだ?」

「レヴ様、何を…?
もしや、どこかお怪我でも?」

「いや、そうではない…
答えてくれ。
私がいなくなって、どのくらい経つ?」

「昨日、馬車を降りられてからですから…丸一日…といった所でしょうか?」

「一日…?!」



では、私があの世界へ行き、様々な人々と出会い過ごした日々は、夢だったと…ただの幻想だったというのか…?!

にわかには信じられない話ではあったが、ピエールの顔を見ていると嘘を言ってるようには思えない。
そもそも、彼は、冗談さえもあまり言わない真面目な人物なのだから。







あれから、私はごく当たり前の生活に戻った。
あの世界に行く前と、なんら変わらない穏やかな毎日を暮らしている。

あの世界の話は誰にも言ってはいない。
しかし、あれがただの幻想だったとは考えてはいない…
馬鹿馬鹿しいと思われるかもしれないが、また、いつかセルジュにも出会えるような気がしている。
それがいつのことになるのかはわからないが、再び、あの世界へ戻り、あの人形を元の人間に戻す日が来る事を、私は密かに信じている…




fin