私は、また森へ向かって歩き出した。
これは、おそらく元の世界への帰り道…
だとすれば…




「あった…」



しばらく進むと、そこには私が頭の中に思い描いていた白いペンキの塗られた大きな鉄の門が現れた。
この世界に着いた時、最初に訪れたあの屋敷だ。
やはり、私は帰り道を歩いているのだ。



私は扉を押し開け、中に入った。



「お帰りなさい、レヴ様。」

あの時の執事が、にこやかな顔で出向かえてくれた。



「何か変わったことはなかったか?」

「いえ、特には、何事も…」

「そうか…」

この者が、何者なのかは今でもわからない。
それがわかっていながら、私は彼にそんな質問を投げかけてみた。
それに対し、彼はこともなげに答えを返した。
ごく、ありきたりな答えを…



「レヴ様、お食事の用意が出来ております。」

中に入ると、若いメイドがそう声をかけてきた。
このメイドも、確か最初にここに来た時にいた者だ。
私は言われるままに、食堂に入り、食事を済ませ、さらに入浴を済ませると、太陽のにおいのする気持ちの良いベッドで眠りに就いた。



次の朝、朝食を済ませ食堂を出ると、昨日のあの執事が声をかけてきた。



「レヴ様、そろそろお時間です。」

そう言って、廊下のつきあたりの部屋を指し示す。



「何の時間だ?」

その問いに、執事は答えず、ただ微笑むだけだった。
しかし、その穏やかな微笑とは裏腹に、視線は、その部屋へ向かう事を強要するかのような強い意思を持ったものだった。
何の部屋なのかはわからないが、とにかく行かねばならないということなのだろう。



(そういえば、こんな所に扉があっただろうか?)



私はそんなことを思いながら、扉を開いた。
その瞬間、軽いめまいのような感覚に見舞われた。
停まった時計の螺子を巻いた後に感じるいつものあの感覚だ。




そして、次の瞬間私の目に映ったものは…

鬱蒼とした深い森だった。



振り向いたその場所には、何もない。
今までいた、あの屋敷は瞬きをするほどの時間もないままに、跡形もなく消えうせていた…