「婆さんがあんなに喜ぶとは思わなかったな。」

「そうだな。」

先程の老婆の喜びようを考えると、ルシアが差し出した物もそれ程たいしたものなのではないように思えてきた。



(子供の頃に読んだ童話の記憶が強過ぎるのだな…)



私達は、人形に言われた通り、老婆の家の前の道をさらに先に進んで行った。

昼過ぎになって、やっとそれらしき町が見えて来た。



「きっと、あれだな。」

近付くにつれ、そこが死んだ町だと言う事がよくわかった。
いつものように、何の音もなく、かすかに動くものさえないのだ。



そしてまたいつものようにあの鈴の音が聞こえて来る。

「こっちだ!」

さほど広くはない広場を通り過ぎようとした時、私はふと隅にあった小さな祠に気が付いた。



「セルジュ、あれは何だろう?」

「さぁな。でも、鈴の音はそっちじゃないぜ。
もっと奥だ!
早く行こうぜ!」



セルジュにせかされ、鈴の音に導かれるままに進んで行くと、白い建物の方から聞こえてくるのがわかった。



「ここは診療所だな。」

扉を開けると、その時計は廊下の突き当たりにすぐにみつかった。



「あれだ!!」

時計の前で腰をかがめ、まさに螺子に手をかけようとして、私は不意に手を停めた。



「どうしたんだ?」

「人形は言ってたな。
甦らせるのはこの町でおしまいだと…」

「あぁ…それがどうかしたのか?」

「じゃあ、その記念すべき最後の螺子は君が巻きたまえ。」

「なんでだ?」

「なんでと言われても困るが…
今までは私が巻いてきたから、君も1度くらい巻いてみたらどうかと思ってな。」

「そうか…ありがとう!
じゃあ、巻かせてもらうよ!」

私はセルジュに懐中時計を見せた。
彼はそれを見て時刻を合わせると、螺子に手をかけそして力をこめてそれを巻いた。



途端に、消毒薬のにおいが鼻をかすめ、小さな子供の泣き声が耳をつんざいた。
待合の長椅子には、数人の人々が座っている。