「本当にすごい霧だな。
なにも見えないぜ!」

「セルジュ、あそこに見えるのは灯かりじゃないか?」

「おかしいな…
また人形の家に戻ってしまったのかな?」

霧の中をしばらく歩いてるうちに私達は小さな灯かりを見つけた。



「こ、ここは…!!」

「さぁ、早く中へお入り!!」

「ああっっ!」

そこは、あの魔法使いの老婆の家だったのだ。
老婆に腕をひかれたセルジュは、家の中へひきずられ、その結果、私もそれにひきずりこまれてしまった。



「な、なんで、ここにあんたが!?」

「は?何を言うとるんじゃ。
ここはわしの家なんじゃから、わしがここにいて何の不思議があろう。
さ、早く部屋へ戻った、戻った。」

「お、おい、婆さん!」

私達は昨日と同じ小部屋に通された。



「このあたりには、夜になると白い霧が出るんじゃ。
あの霧は、ただの霧ではない。
悪い霧なんじゃ。
あの霧の中をさ迷うと、この世ではないどこかへ連れ去られ、二度と帰って来れなくなるんじゃ。
あんたらも危ない所じゃったぞ。
だから、今夜はわしの言う通り、ここに泊まっておいき。
そういやあ、そろそろ腹も減った頃じゃろう?
今、何か作ってやるからな。」

「ちょ、ちょっと待てよ、婆さん!
今夜はって…
俺達がここに来たのは昨日だぜ。」

「馬鹿を言うでない!
ついさっきのことと昨日のことがわからんとでも思ってるのか!
何度も言うようだが、わしはまだもうろくはしとらんのじゃ!!」

老婆は怒りながら、部屋を出て行った。



「レヴ、あの婆さん、相当いかれてるな。」

「……セルジュ、そうではないかもしれんぞ。
もしかしたら、あの霧のせいなのかもしれない…」

「あの霧の…?
どういうことなんだ?」

「人形が言っていたじゃないか、あの場所は違った場所だと。
だから、そこでの時間の経過は、もしかしたらこちらとは違っているのではないかと…」

「なんだかよくわからないが…
婆さんにとっては、俺達が外へ出たのは一瞬の出来事だったってことか?
俺達が霧の中で走ったり眠ったり、人形に会ったりした時間はこっちは経過してないってことなのか?」

私はセルジュの言葉に黙って頷いた。