何度、扉を叩いても、中からの返事はなかった。



「……残念だが、留守のようだな。」

「どこかに出掛けてるのか、それとも空き家なのか…
あ……」

セルジュが無意識にドアノブを回すと、扉が少し軋んだ音を立てて開いてしまった。



「レヴ、鍵がかかってないぞ!」

「だからといって、泥棒のような真似は出来ないぞ。」

「レヴ!もしかしたら、ここにも停まった時計があるんじゃないか…?」

「まさか…」

「少しだけ、のぞいてみようぜ!」

「お、おい、セルジュ!!」

セルジュは私の制止も聞かずに、どんどん部屋の中へ入っていく。
仕方なく、私もそれに続いた。



「いらっしゃい…」



「レヴ、今、何か聞こえなかったか?」

「あぁ…聞こえた。」



「こんちわ!誰かいるかい!
俺達、別にあやしいもんじゃないんだ。
ちょっと道を聞きたくてな!」



「ようこそ…」



「どこだ?どこにいる?」



「私はここだよ…
君の目の前に座っている…」



「目の前って…」

私の視線は、リビングの椅子に腰掛ける小さな人形に注がれた。



「レヴ…君にはわかったようだな…」



「レヴ、どういうことなんだ?」

「セルジュ!あれだ!
あの人形がしゃべってるんだ!!」

「人形がしゃべってるだって?
そんな馬鹿な…」



「セルジュ…そんな怯えた顔をしないでくれ。
とにかく二人とも、そんな所に突っ立ってないで、そこの長椅子にでも座ってくれ。
あいにくと、ここには誰もいない。
それに、私は動けないからお茶を差し上げることも出来ないが…」



人形の口は少しも動いてはいない。
だが、私達には人形の言葉がはっきりと伝わった。



「レヴ、早く出よう!
ここもきっと魔法使いの家だったんだ!」

「いや……
そうではないだろう。
少し、あの人形の話を聞いてみようじゃないか。」



「ありがとう、レヴ。
しかし、君達にこうして会えるとは思ってなかった。
本当に嬉しいよ。」



「レヴ、大丈夫なのか?
人形の話なんて聞いたりして。」

確かに考えられない状況ではある。
人形と会話をしているなんて、誰に言っても信じてもらえない話だ。
だが、不思議なことに、私は、その場を離れたいとは思わなかった。
この奇妙な人形にも恐怖のようなものをまるで感じなかった。




「ありがとう!セルジュ、レヴ。
実は、この世界へ君達を呼んだのは、この私なんだ…」