「俺達は、一体、どっちから来たんだろうな?」

「そんなことが私にわかるわけがないじゃないか。
困ったもんだな。」

「なに、適当に歩いてりゃそのうち元の場所に出くわすさ。
食料も少しはあるんだし、心配はないさ。」

楽天的なセルジュの言葉に、私はいささか勇気付けられた。
考えてみれば、彼の言う通りだ。
走って逃げたとはいえ、せいぜい小1時間なのだからそれほど遠くまで来ているわけはない。
しばらく探してみれば、きっと元の道がみつかるはずだ。



「じゃあ、行くか。」

私は歩き出したセルジュの後を黙ってついて行った。



彼がなぜその方角を選んだのかはわからないが、おそらく根拠があってのことではないだろう。
しばらく進んで、それが見当はずれの方角だったということがわかった。
進んだ先には、見覚えのある道は現れなかったのだ。



「こっちじゃなかったようだな。
引き返そうか…」

「ちょっと待て、セルジュ。
あれは、なんだろう?」

私が指差す先には木々の隙間から、赤いものがちらちらと見えている。



「あれは、屋根じゃないか?」

「じゃあ、家があるってことだな。」

「魔法使いの婆さんの家の屋根じゃなさそうだが…
どうする?
引き返すか、それとも行ってみるか…」

「……行ってみよう。」

そこが私達の探している方角ではないということはわかっていたが、私はなぜだかその赤い屋根の家が気になった。
それはセルジュも同じだったようだ。



しばらく進むと、赤い屋根の全景がはっきりと視界に入った。
こじんまりした煉瓦作りの家だった。
あたりには一軒の家もない。



「しかし、こんな所に住んでるなんて、物好きな奴もいるもんだな。」

「もしかして、また魔法使いの家だったらどうする?」

「馬鹿言うな!
そんなわけないだろう!」

私達は、赤い屋根の家に着き、不安と期待の入り混じった想いを胸にその扉をノックした。