「なら、君はなぜルシアと同じように元の世界へ送り返してもらう魔法をかけてもらわなかったんだ?」

「それは…あんたが、言ってたじゃないか…
魔法をかけてもらう代償…そいつがどうにもひっかかってな。
婆さんは、代償のことについては言葉を濁した。
第一、ルシアは金も宝石も、そういう価値のあるものは何一つもっちゃいなかった。
だとしたら、婆さんは一体何を…
それを考えると、なんだか薄気味が悪くてな。
あんたはどう思う?
ルシアは婆さんに何を与えたと思うんだ?」

「…さぁ…」

その時、私の脳裏には、またしても童話の悪い魔女の話が思い起こされていた。
魔女は、宝石や金なんてものにはもともとあまり関心を示さない。
彼女達がほしがるのはもっと違うものだ。
普通の人間にはやりとりが出来ないようなものなのだ。
それを考えると、私もセルジュ同様、薄気味の悪いものを感じていた。



「とにかく、こうなった以上、ルシアのことは探しても無駄だな。
これからは、今まで通り、二人で時計の螺子を巻きながら進んで行くしかないってわけだな。」

「……そのようだな。」



私達はそこでしばらく休み、夜が明けたら、またあの町へ引き返すことにした。









「ここは……」

次の朝、目を覚ました私はあたりの風景に戸惑い、慌ててセルジュを起こした。



「セルジュ、起きてくれ!」

「ん……なんだ…どうかしたのか…?
あぁ、良い天気だ。
良かった…霧は晴れたみたいだな。」

「そんな呑気なことを言ってる場合じゃないぞ!
あたりを見てみろ!」

「あたりを…?なにがあるんだ?」

セルジュは、上体を起こしあたりを見渡した。



「あれ?ここは一体どこなんだ?」

「それを言ってるんだ。
私は昨夜てっきり町に向かって走ってたと思ってたんだが、どうやら見当はずれの道を走ってたようだな。」

「見当はずれっていっても、婆さんの家の前は一本道だったから、俺達は町とは逆の方に走ってしまったってわけか?」

「どうやらそうらしいな。」

私達の目の前には草原が広がり、周囲は森のような状態になっていた。