テーブルの料理はどれもたいそう美味いものだった。
食事を口にしてしばらくはやはりどこか心配だったが、幸いな事に毒が入っているような気配はなかった。
私は、出されたものをほとんど綺麗にたいらげると、グラスのワインを飲み干し部屋の外へ出ようとした。
しかし、入ってきたドアは固く閉ざされ開かない。
仕方なくその向い側にあったドアノブを回してみると、そちらはすんなりと開いた。

廊下に出ると、先程と同じように壁のランプが道案内をする。
行き着いた部屋は寝室だった。



(……ここに泊まれということか…)



奥のバスルームには温かいお湯までが張ってあった。

私は、入浴し、身体の疲れを癒し、そして軟らかいベッドに横になった。



(いたれり尽せりだな…)



この屋敷で何か不思議な力が働いていることは間違いない。
誰かに話しても信じてもらえそうにない、おかしな力だ。
だが、今の所、私に危害を与えるような気配もない。

そんなことを考えているうちに、昼間の疲れが出たのか、私はいつの間にか眠りに落ちていた…







次の朝、身支度をすませ部屋を出ると、明るいせいかランプこそつかなかったが、食堂のテーブルにはすでに朝食が用意されてあった。

朝食をすませ、玄関に通じる扉を開こうとしたがそこは昨夜と同じく固く閉ざされたままだった。
今度は先程入ってきた扉を開こうとするが、そこもまるで開かない。
どうしたものかと考えていると、昨夜は確かなかったはずの第三の扉をみつけた。



(気付かなかっただけだろうか…?
いや、違う…昨夜は確かにこんな所に扉はなかった…)



おそらくは今朝はこちらへ行かなければならないということなのだろう…

私の推測通り、その扉はすんなりと開いた。



そこは、さほど広くない部屋だった。

部屋の中にあるものといえば、長椅子と低いテーブル、そして古びた置き時計…

それ以外には他の部屋へ続く扉さえない。



(ここへ通されたのはどういう意図があってのことなのだろうか…?)



私は狭いその部屋の中をゆっくりと歩きながら、何かないかと注意深く見てみたが、気になるものは特に何もみつからなかった。