「うわぁ!
…びっくりした!
あんた達、一体いつの間に入って来たんだい?」



その声に驚いたのは、私達の方だ。
今まで、誰もいなかった店内には、声を上げた恰幅の良い中年の男と、窓際の席に同じ位の年齢の男が座っていた。
窓際の男は、片手に新聞を持ちながらコーヒーを飲んでいたので、私達のことには気付かなかったようだ。



「さっきだよ。
そしたら、この時計が停まってるのに気が付いて、今、螺子を巻いた所なんだ。」

「そいつはありがとう。
いつも気を付けて螺子を巻いてるつもりだったんだが、いつ切れたんだろうな。
…ところで、あんた達、注文は何にする?」

「そうだな…じゃあ、俺はコーヒーとなんでも良いから食べるものを頼む。」

「では、私は紅茶とオムレツを…」

私達は、カウンターに席を取った。



「あんたら、旅の人かい?」

「そうなんだ。
しかし、ここまでは遠かったよ。」

「遠かったってどこから来たんだ?」

「えっと…そういや、町の名前を聞いてなかったな。」

「とにかく、ここに来るまでかなり遠くて、間には民家が何軒かあるだけで…」

「あぁ、わかった。
そいつは多分、ロマーナの町のことだな。
町の真ん中に大きな広場がある…」

「そうそう!そこだ!」

「よくもあんな所から歩いて来たもんだな。
馬車に乗って来りゃあよかったのに…」

「馬車なんてあったのか?」

「あぁ、1年ほど前から乗合馬車が出来たんだ。
ここに来る途中、出会わなかったか?」

「しかし、そんなものは見なかったが…」

二人の会話を聞いているちに、私の頭の中にその理由が浮かんだ。
店の主人が厨房に引っ込んだ隙に、私はそのことをセルジュに耳打ちした。



「わかったぞ、セルジュ、馬車をみかけなかった理由が…」

「どういうことなんだ?」

「つまり、この町はまだ死んでいたからだ。
ここからの馬車は出ていなかったんだ。」

「何っ?じゃあ、こことグレンのいる町では1年の隔たりがあるってことなのか?」

「……それはよくわからない。
だが、グレンが馬車のことを言わなかったのは、そういうことなのか、それともただ知らなかっただけなのか…」

「……よそうぜ、レヴ。
こんなこと考えてたら、なおさら頭がこんがらがっちまう。」

「そうだな…君の言う通りだ…」



この世界の時間は一体どうなっているのか?
とても気にはなるのだが、今はそのことは考えない方が良いように思えた。