隣町までは、ずいぶん距離があると聞いてはいたが、それは、私の想像を遥かに上回っていた。
どこまで行っても何もない長い道が続くばかり…
たまに、思い出したように民家が点在するだけだ。
食料は持って来たものの、野宿は辛かった。
そういう日々が、一番こたえているのはやはりルシアのようだった。
日を追うごとに、彼女の表情は暗く沈み、口数も少なくなって来た。
心身ともに、疲労している事がよくわかる。
先日、セルジュが言ったことを聞いて、彼女は空に向かって自分の想いを叫んでいることがよくあった。
そんなことで、彼女はなんとか心のバランスを保っているのかもしれない。



「あ…雨だ…」

ぽつりぽつりと降り始めた雨は徐々に勢いを増していく。
土砂降りという程ではなかったが、その雨は私達の全身を冷たく濡らしていく。



「困ったな。
どこか、雨宿りをするような場所はないだろうか…?」

「俺、ちょっと見て来るから、あんたとルシアはここにいてくれ。」

セルジュは、私達を木影に残し走って行った。
木の葉の隙間から雨はどんどん落ちてくる。
とても、雨宿りが出来るような場所ではなかった。



「レヴ~!!」

セルジュが大きな声で私の名を呼び、手招きをしている。
私とルシアが駆け寄ると、セルジュは前方を指差した。



「ほら、あそこに洞窟みたいな所があるぜ。」

私達は、その場所まで一気に駆け抜けた。
しばらくすると、雨はさらに激しさを増してきた。



「良かったな。
この場所がみつからなかったら、ずぶ濡れだな。
…とはいっても、けっこう濡れちまったな。」

出来れば火を焚きたい所だったが、薪もないため我慢するしかなかった。




それから数日間、しとしとと鬱陶しい雨の日が続いていた。
ルシアは、洞窟から空を見上げては悲しそうな表情を浮かべていた。



「どうした、ルシア。」

「なんでもありません。」

「なにか、辛い事があったら、いつもみたいに…」

「そんなこと……」

「えっ…?!」

「そんなことしたって、伝わらないわ!!
この空は、私の家族のいる世界になんて繋がっていない!!
私は、一生、ここから出られないんだわ!
もう二度と、家族に会う事なんて出来ないのよ!!」



ルシアは、そう叫ぶと一際大きな声を上げて泣き出した…