「いや、必ず帰れるさ!」
そう言う事は容易いが、そんな無責任なことは言えない。

しかし、こんな時はたとえ嘘であってもそういう風に言ってやるべきなのだろうか?

ルシアはまだ若い。
多感なこの時期の女性には、ちょっとしたことで希望が絶望に変わってしまうことだってある。
そうなれば、ふとしたきっかけで馬鹿な真似をしでかしてしまうかもしれない。
無理に現実を突き付けることが、必ずしも正しいとは言えないのではないか。



「大丈夫!
必ず、帰れるさ!」

私が口を開く前に、セルジュが声を発した。



「ラブストーリーのセリフなんかでよく言うじゃないか。
どんなに遠く離れてても、この空はあなたの所に続いてる…ってなことをさ。
ここがどんな世界でも、きっとこの空だって元の世界に繋がってるんだ。
ルシア、これから先、もしもくじけそうになったら、空に向かってルシアの想いを叫ぶんだ!
伝えたい相手に向かって叫ぶんだ。
そしたら、きっとその想いはこの空を突き抜けて、元の世界に届くさ。
相手に届くさ!
……そうだ、ルシア!今、試しにやってみな!」

「えっ?!」

ルシアは一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが、すぐにその顔を真っ青な空に向け、大きな声で叫び始めた。



「父さん!母さん!サミュエル!
私は無事よ!
変な所に連れて来られちゃったけど、私は大丈夫!
……必ず、帰るから…
心配しないで待ってて…
父さん…私……
……早く帰りたい!!早く、皆に会いたい!!」

感情が高ぶったのか、ルシアはその場にうずくまり、子供のように大きな声で泣き出した。
きっと、今まで一生懸命気を張っていたのだろう。
突然、見知らぬ場所へ連れて来られ、誰一人として知る者もいないこの場所で心細さを懸命に押し殺して耐えていたのだろう。

今、その感情がすべて吐き出されたのだ…



セルジュは一言もしゃべらず、ただずっとルシアの背中をさすり続けていた。