旅立ちの日は、とても清清しい朝だった。



「こんなに早い時間に外に出るなんて、久しぶりだな。」

「外に出るもなにも、こんなに早く起きたこと自体、めったになかったんじゃないか?」

「そういや、そうだな。
俺は元々、夜型だからな。早起きは苦手なんだ。」

「そういえば、君はいつも遅くまで起きてるようだな。」

「そういうあんたこそ。
俺より夜更かしなんじゃないか?
あんたも夜働いてたのか?」

「いや、そういうわけではないのだが…」

仕事らしい仕事を今までしたことがないということは、やはり言い出しにくく、私はついそんな風に言葉を濁した。



「君は、何をしてたんだ?」

「最近は、バーテンをやってたんだ。
ルシアは何をしてたんだ?」

「私は、雑貨屋で働いてました。」

「そうだったのか…
皆、それぞれに仕事もあって、それぞれに生きてたのにいきなりこんな所に連れて来られたってわけか…」

「私がいなくなったことで、父さんや母さんが今頃どんなに心配してるかと思うと、私…」

ルシアの顔が一瞬にして曇った。



「そうか…家族がいたんじゃ、そういう心配もあるな…」

「君は、一人だったのか?」

「あぁ、俺はもうずっと一人だ…
それに仕事も長続きしない事がほとんどだったから、きっと俺のことなんて誰も心配してないだろうさ…
……そういうあんたは家族はいたのか?」

「いるにはいるが…
私は以前からよくふらっと出掛ける癖があったから、きっと今回もそういう旅だと思われていると思う。」

「そうか…
まぁ、そう考えりゃ、俺が一番、気楽な身分だってことかな。
万一、元の世界に帰る事が出来なくても誰も悲しむ奴はいないし、それで何かが変わるわけでもないんだもんな。」

「帰れない……?
私達、ここから帰れない可能性もあるんですか?!」



ルシアの真剣な眼差しに、私は何と答えれば良いのかわからなかった。