何も見えない闇の中、少し先にぼんやりとした明かりが見えた。
こんな森の中に住む者がいるのか…?
少し疑問に感じながら、足元に気を付け、慎重に明かりに向かう…



…そこは古く大きな屋敷だった。
表の鉄の門に手を触れると、錆びているのがわかった。

まるで廃屋のような屋敷…
しかし、明かりがついているということは住んでいる者がいるということ…



(今夜、泊めてもらえれば助かるのだが…)



門の外から声をかけたが、中からは何の返事もなかった。
私は鉄の門を押しあけ、敷地へ入る。
屋敷の扉を叩いたが、やはりここでも返事はなかった。

ふと、ノブに手をかけると、意外にも扉は軽い音を立てて開いた。
私はもう一度声をかけたが、屋敷の中はしんと静まったまま、何の音もしない。

鍵がかかっていないということは、この屋敷の住人は近くにでも出掛けているのだろうか?
しかし、こんな広い屋敷に住人がたった1人というのもなんだかおかしい気はするのだが…

勝手に入るわけにも行かず、私は玄関に立ち尽くしていた。
ふと、廊下の方に目をやると、不思議なことに次々に壁にかかったランプが火を灯していく。
まるで私を廊下の奥へ導くかのように…



(そんな馬鹿な…)



私はその不思議な光景を目の当たりにしながら、どうするべきか戸惑っていたが、不安よりも好奇心の方が勝り、その導きに逆らうことなくついていくことにした。



灯かりは廊下の突き当たりの部屋まで続いた。
その部屋の扉を開けると、そこは広い食堂だった。

テーブルの上には、たった今、運ばれてきたばかりのような湯気のあがる料理がいくつも並べられている。



(…これは、私をもてなしてくれているのだろうか…?)



頭の中では躊躇いながらも、私は無意識にテーブルについていた。

この善意をそのまま素直に受け取っても良いのか…?
もしかしたら、これは私を陥れる罠なのかもしれない…毒が入っているのかもしれない…
しかし、誰が何のためにそんなことを…?

私は日頃から、悪意よりも善意の方を好む方だ。
つまらないことを考えて、せっかくの料理が冷めてしまっては申し訳ない…
ただそれだけの理由で、私はテーブルの上の料理に口を付けた。