それから数日が経ったある日のことだった。
私達は、相変わらず何の計画も思い浮かばないないままに無為な日々を過ごしていた。



「そうそう、明日からあの町に大道芸人がやってくれるらしいよ。
エミルを誘って行ってみないか?」

グレンが唐突にそんなことを言い出した。



「あの町…というと、エミルの住む町の先のあの町のことか?」

「あぁ、そうだ。」

私とセルジュは思わず顔を見合わせた。



この世界の住人であるグレンやエミルと一緒にあの町に行けば、一体どういうことが起きるのだろう?



「……どうした?気が進まないのか?」

「いや、そうじゃないんだが…」

私は救いを求めるように、セルジュに視線を投げかけた。




「…よし!行ってみようぜ!
最近、ずっと家に閉じこもってたし、たまには外に出ないとな!」

「セルジュ…良いのか?」

「あぁ!行ってみようぜ!」

彼は本当に思い切りの良い男だ。
しかし、そのおかげで私の気持ちも吹っ切れた。
何事かが起こったとしても、それは起こってから対処すれば良い。
なにもせずに、このままの状態を続けていても事態は進展しないのだから。
無謀であることは承知の上で、私達は、大道芸を見に行くことを決めた。








「ひさしぶりだな、エミル!元気にしてたか?
あれから、ピアノのレッスンは進んでるのか?」

「うん!少しずつだけど、毎日練習してるよ。
でも、やっぱり難しいもんだね。
とても、兄さんやレヴさんみたいには弾けないよ!」

「それは仕方ないことだ。
私だって、すぐにうまく弾けるようになったわけじゃないんだぞ。
毎日、毎日、レッスンをしているうちにだんだん弾けるようになってきたんだから。」

「そういうこと!
なんだって、練習の積み重ねさ!
諦めずに真面目にコツコツ続けてりゃ、いつかは、うまくなるもんだ!」

「そうだね。僕、頑張るよ!」



そんな他愛無い話をしながらも隣町に近付くに連れ、私の胸の鼓動はだんだんと速くなっていく。
あの町に着いた途端、一体、どういうことになってしまうのか…
ついそのことばかりを考えてしまう…

町の近くにさしかかった時、町の中から陽気な音楽と人々の声が聞こえて来た。



(レヴ、どうなってるんだ?
この前とは様子が違うぜ。)

(本当だ…確かに人がいるようだな。
どうなってるんだろう?)

私とセルジュは驚きを胸に隠しながら小さな声で囁きあった。