「エミル!やっと出て来てくれたのね!」

まだあどけなさの残るその少年は、哀しみと怒りに満ちた瞳をしていた。



「その曲は…兄さんの命を奪った死の曲だ…!!
僕のせいで…僕のせいで、兄さんは…!!」

「エミル…それは違うぞ…」

「違うもんか!
兄さんは僕のせいで…」

少年の身体は噴出した感情のためか、小刻みに震えていた。



「エミル…!聞きなさい!
……ジェレミーは、生まれ付き身体に重い病気を抱えていたんだ。
あの子は、せいぜい10年程しか生きられないだろうと、産まれた時からお医者様に言われていたんだよ。」

「う、嘘だ!」

「嘘じゃない。そのことは彼自身も知っていたんだ。
それが、15歳まで生きる事が出来たのはなぜだと思う?
エミル…それはおまえがいてくれたからだ。
おまえが、ジェレミーのことを大切に想い優しくしてくれたのと同じように、彼はおまえのことをとても深く愛し感謝していた。
おまえを通して学校のことや、町の様子を知ることが出来るととても楽しみにしていた。
だからこそ、ジョレミーはおまえにその感謝の気持ちを伝えたかったんだ。
きっと、もう自分の命がそう長くないことを彼は感じとっていたのではないかと思う。
それで、あんなに一生懸命になっていたんじゃないかな。
身体の具合が悪くても、この曲を書き上げるまでは…!というその気持ちが、彼の命を永らえてくれたのではないかと私は思っているんだよ。
そう…この曲は死の曲なんかじゃない。
むしろ、生命の曲なんじゃないのかと私は思うよ…」

「そ…そんなの…嘘だ!」

「エミル…
あなたがこの曲を喜んでくれなかったら……天国のジェレミーはどんな気持ちがするかしら…?」

「か…母さん…」

エミルの瞳に涙が浮かぶ…
次第にその涙は溢れ出し、エミルは母親の胸にすがって泣き出した。
今まで、溜めこんでいた心の中のもやもやを全て吐き出すように……まるで小さな子供みたいにとても激しい勢いで……

兄の死の原因を自分のせいだと思いこみ、この少年はずっと一人で小さな胸を痛めていたのだろう。



私は言葉をかける代わりに、もう一度ピアノの前に座り、あの曲を弾いた。
ジェレミーが弟のために遺したあの曲を…