「じゃ、皆を呼んでくるからな!」

私はピアノの前に座り、グレンが皆を連れて来るのを待っていた。



「まぁ、もしかしたら、今日はレヴさんがピアノを弾いて下さるのかしら?!」

私がピアノの前に座っているのを見て、夫人が嬉しそうに微笑んだ。



「そいつは楽しみだ。」

カルヴェス氏も夫人と同じように、顔をほころばせている。



「じゃ、始めてくれ!」

グレンの声を合図に、私はピアノに向かい、あの曲を弾き始めた。

さっき弾いた時よりも、さらに指がなめらかに動く。



ピアノが喜んでいる…

私にはそんな風に感じられた。



最後まで弾き終えた時、私はまた胸が熱くなるのを感じた。
こみあげる涙を押さえるのがやっとだった。

しばらくの沈黙の後、カルヴェス夫妻から拍手が起こった。



「素晴らしいわ、レヴさん!
……まるで、あの子が帰って来たみたい…
それに、この曲…なんだかとても懐かしい気がします。」

「私もそう思っていた所だ。
これは有名な曲なのですか?」

「これは…あなた方のご子息が書かれた曲です。」

「えっ!?」

私の言葉に、夫妻の瞳が大きく見開かれた。



「カルヴェスさん、亡くなった息子さんのことを聞いてから気になってたんですが、僕には何も出来ることはありませんでした。
でも、レヴならきっとあの曲を完成してくれるんじゃないかと思い…
それで、頼んでみたんです。」

「まぁっ!……では、今の曲はジェレミーの…」

「…道理で…
あの曲は、ジェレミーが亡くなる前によく弾いていたあの曲だったから…だから、懐かしい感じがしたのか…
ありがとうございます、レヴさん!
ずっと未完成だったあの曲を完成させて下さって…
あの子の想いを遂げて下さって…
あなたには、なんとお礼を言えば良いのか…」

カルヴェス夫妻は涙を拭いながら、私に手を差し伸べた。



「彼の想い通りの曲になったかどうかはわかりませんが…喜んでいただけて幸いです。」

「レヴさん、お願いです!もう一度、弾いていただけませんか?」

私は頷き、もう一度あの曲を演奏した。



「ありがとう!レヴさん!
あの子は、弟のエミルの誕生日に今の曲を弾いて驚かせるつもりだったらしく、それまでに弟には聴かれないようにと夜中になってからピアノを弾いてたんですよ。」




「だから……
そんな無理をしたから兄さんは死んだんだ!」



突然の声に振り向くと、そこには黒髪の少年が立っていた…