降りようとした。
「ねぇ…」
「どないしたん?」
「このままくっついてて、いいかなあ?」
「構へんで」
波のざわめきだけがする。
「ねぇ」
「次はどないしたん?」
萌々子は今度はきつく慶を背後から抱き締めた。
「…私なんかじゃ、のぞみちゃんの代わりにならないよね?」
「萌々子は萌々子やん」
慶は振り返る。
「萌々子は萌々子で、おれ嫌いやないで」
「私は好きだけどな」
萌々子の力が強くなった。
(どないなんのやろか)
と慶は思った。
これから先のことは分からないながら、萌々子と共に歩んでゆくイメージは容易に、慶にも察せられた。
すでに西陽は傾いている──。
(完)