何しろ萌々子の高校はいわゆる名門のお嬢さま学校で知られており、先輩に有名人もいる。

が。

萌々子は少し変わっている。

中学のとき、たまたま入試を運試しのついでで受けてみたら受かってしまって、それで勧められるまま仕方なく通学していたに過ぎない。

それだけに、

「さすがに中華街だけは、誰かに遭遇するかもしれないから」

といって、校舎があった石川町に近い関内へは今だに近寄らないのである。

「うーん、しゃーないなあ…あんまり人がゴチャゴチャおらん方が、萌々子ちゃんはえぇんやろ?」

「うん」

できれば、と萌々子は続けて、

「お慶さんの知ってる穴場がいい」

うつむき気味の慶の顔を、のぞき込んだ。

「穴場か…あるにはあるけど」

「じゃあ、そこ決定!」

子供じみたはしゃぎようで萌々子は、はじけた笑顔になった。

「…ま、えぇか」

萌々子の笑顔で、慶は降参した格好となった。