「けどお慶さんって、商売だ儲けだって平気でいっちゃうドライなところもあるのに、わざわざ鶴見から鎌倉まで送ってくれるぐらい優しい面があるから、不思議といえば不思議な人だよね」

萌々子の一言に慶は椀物を飲む箸が止まった。

「お慶ちゃん、よく誤解されるでしょ」

操の指摘に慶は再び動きが止まった。

「まあ、はい…」

「ほらね」

「うちのお祖母ちゃんね、なんでも人の性格とか見抜いちゃうの」

萌々子は自慢気にいった。

「私は単に、長く世間様にいるからいろいろ知ってるってだけよ」

「でもこないだお慶さん、おれのことは分かるヤツだけ分かればいいって話してたじゃん」

「あ、それね」

「ほら、こないだいってた…」

「わが行く道は我のみぞ知る──って話?」

「うん、それそれ」

「昔ちょっと、何かの本で読みかじっただけの話なんですけどね」

「それ…確か坂本龍馬の歌じゃなかったかなあ」

「へぇ」

萌々子は興味なさげな返事をした。