キモチの欠片


「俺は人間的にもまだ未熟だし、仕事もこれから頑張らないといけない。精神面や金銭面を含め全てのことに成長し、ゆずをしっかり守れるような男になってから正式にプロポーズする。それまで待っててくれるか?」

葵の瞳の奥が不安そうに揺れるのを見て胸が締め付けられた。

冷静に考えたら、まだ入社一年目のあたしたち。
付き合ったばかりで結婚なんてまだ先のことだけど、葵は真剣に将来のことを見据えている。
あたしだって結婚するなら葵以外考えられない。

「もちろんだよ。あたしも葵に負けないように成長しなきゃね」

「ありがとう」

そう言って極上の笑顔を浮かべる。
思わず見惚れていたら葵の唇があたしの唇と重なった。

こんな人の往来のある場所でなんてことを!
思わず周りをキョロキョロと見回した後、葵に文句を言ってやろうとした時。

「今日、泊まるか?」

耳もとで囁かれ、羞恥で顔が真っ赤に染まる。
自分でも何て初な反応をしているんだろうと思うけど、不意打ちはダメだ。

「前も泊まっただろ。嫌ならマンションまで送るけど」

葵は泊まるかと言っておきながらあっさりと引き下がる。
ここで帰るとか言うのも癪だ。

「……泊まる」

小さな声で呟くと葵はククッと喉の奥で笑い、再び手を繋いで歩き出す。

「素直なゆずも珍しいな」

「うるさい」

照れ隠しに悪態をつきながらも、繋いだ手は離さなかった。



end.