キモチの欠片


そろそろ帰ろうとコインパーキングに向かって歩きながら、あたしはあることを思い出す。
聞くのは怖いけど、このまま黙ってることはできなくて口を開いた。

「そう言えば社長が縁談を持ちかけたとか言ってたけど、よくあるの?」

ちょっと、いや、だいぶあたしの中で引っかかっていた。
葵は御曹司な訳で、将来結婚するならあたしみたいな一般家庭の女より、家柄のいいお嬢様とかの方がいいのではと今さらながら気になっていた。

せっかく葵と付き合えるようになったのに、別れなきゃいけないとか……。
考えただけで胸が痛くなる。

「全くねぇよ。今回が初めてだったんだよ。俺がゆずに振られたと親父が勝手に勘違いして言い出して。そもそも、お前のせいなんだぞ」

「は?何であたしのせいなのよ!」

いきなりそんなことを言われ、繋いでいた手を離し、足を止めて葵を睨む。


「お前が俺をことごとく無視して相手にもしなかったからだろ。ツンデレならぬ、ツンツンを見事に発揮しやがって。それを親父に見られてたんだよ。『お前、柚ちゃんに嫌われてるんじゃないのか?』って言われて」

葵は忌々しげに舌打ちをする。

「俺がゆずのことを好きだってのは、うちの両親だけじゃなくゆずの両親も知ってるんだよ」

「えっ、そうなの?」

驚きで目を見開く。
あたしの知らないところで一体、何が起きてたんだろう。