キモチの欠片


もー!何やってんのよ、あたし!

結局、社員食堂の二の舞になってしまった。
それだけは嫌だったのに……。

どうして喋ったりしたんだろう。
学習能力のない自分を殴りたくなった。

食べ物を口から出すことなんて出来ないから仕方なく咀嚼していると、隣の席の老夫婦が「仲がいいのう」「若いっていいですねぇ」なんて話しながらクスクスと笑い合っている。

穴があったら入りたい、そんな気分だ。
たいしてお酒を飲んでいる訳じゃないのに、顔も熱いし。

前々から思ってたけど、葵には恥ずかしいという概念がないの?
ところ構わず人に“あーん”してくるし。
顔色一つ変えず平然と出来るのが不思議で仕方ない。

「どうだ?美味いだろ」

あたしは恥ずかしさに悶えつつ黙って頷く。
食べ物に罪はない。

完全に主導権は葵に握られている気がする。

その後、牛肉の赤ワイン煮や自家製ベーコンと野菜のトマトソースパスタが運ばれてきた。
美味しそうな料理を目の前にし、こうなったら開き直ってしっかり味わうことにした。

デザート三種盛りまで残さず食べて大満足、お腹いっぱいになった。

そろそろお店を出ようと席を立ち、財布を出そうとしたら「もう支払いすんだから」とサラリと言われた。

あたしがお手洗いに行っている隙に会計を済ませてくれていたみたいで、やることがイケメン過ぎる。
葵の好意に甘えてごちそうになった。