キモチの欠片


「ゆず、そんなプリプリすんなよ。ほら、これも美味いぞ」

ご機嫌を取るかのように、新たに運ばれてきたナスのミートグラタンをスプーンですくいあたしの口許へと持ってきた。

一瞬、動きが止まる。
この御曹司は一体何をしているんだ?
バカなんだろうか。

葵は微動だにしないあたしの唇にスプーンをグイと押しあててくる。

いやいやいや……。
他のお客さんもいるのにあたしに口を開けて“あーん”しろと?
出来る訳ないでしょ!

不本意ながら何度か経験済みだけど、決して慣れてる訳じゃない。
むしろやりたくないけど、葵は無意識なのかこういうことを平気でするから困るんだ。

以前、社員食堂でたくさんの社員がいる中でこれをやってきた。
その時も抵抗はしてみたんだけど、最終的には押しきられた。

それを見ていた人たちに、あたしと葵が付き合ってるんじゃないかと言われ、あの時は「付き合ってない」と必死にアピールした記憶がある。

今回は絶対に阻止してやるんだから。

隣の席に座っている年配の夫婦からの視線を感じ、口を固く閉ざす。
そんなあたしに痺れを切らしたのか、無理矢理食べさせようとしてくる。

「おい、さっさと口を開けて食えよ。手が疲れるだろ」

「バカじゃないの?こんな場所で出来る訳な……んっ」

あたしが口を開けたのをいいことに、強引に食べさせてきた。