キモチの欠片


社長は今も変わらず子供想いの優しいお父さんなんだなというのが話をしていて分かる。
息子が自分のあとを継ぐと言ってくれたことがすごく嬉しかったんだろう。

そんな社長の葵に対する気持ちを考えたら胸が熱くなり、こっちまで泣きそうになってくる。


「こちらこそ、よろしくお願いします」

うっすらと目に涙をためていたら、葵が心配そうに顔を覗き込んできた。

「どうした?親父に何か変なことでも言われたのか?」

「言われてないよ」

慌てて首を左右に振る。
葵はあたしの手から携帯を奪い話し出す。

「おい、親父!ゆずに何言ったんだよ。って、何で親父まで急に涙声になってんだよ」

電話の向こうのお父さんの変化に葵は戸惑っていた。
あたしは、その隙にハンカチで目元を拭う。


「じゃあ、そういうことでまた連絡する」

葵は電話を終わらせると、携帯をポケットにねじ込み一息つく。

「よし、取りあえず飯食いに行こうぜ」

そう言うと、あたしの手を掴むと引っ張るようにして駐車場へ向かった。


葵が子供の頃からお父さんの会社を継ぐことを考えていたということを初めて知った。
そして、自分の夢に向かって着実に進んでいるんだ。

それに引き換え、あたしは特に夢とかなかった気がする。
しかも、短大を卒業したのに就職もせずバイト三昧とか……。
自分の過去は黒歴史ばかりで嫌になる。