キモチの欠片


「もしもし。は?土曜は特に予定はないけど。はぁ?無理。親父は俺の気持ち知ってんだろ?」

いきなり葵が怒鳴り出す。
イライラしてるみたいだけど何を話しているんだろう。
気になってあたしの耳もダンボになってしまう。

「だーかーらー、振られてないって前から言ってるだろ。俺はゆずと付き合ってるんだよ。嘘じゃねぇって。俺が嘘つくメリットがどこにあるんだよ!チッ、仕方ねぇな」

どうしてあたしの名前が出てきてるんだろう?
しかも付き合ってるとか言ってるし……。

成り行きを見守っていたら、葵は携帯を耳から外してあたしに向かってそれを差し出してきた。

「なぁ、親父がゆずに代われって」

「えっ、あたしに?どうして?」

「さぁ。俺がゆずと付き合ってるって言っても信じてないから。ほら、親父がうるせぇから早く出ろよ」

訳が分からず言われるまま携帯を耳に当て、緊張しながら口を開いた。

「もしもし、お電話代わりました。河野柚音です」

『ホントにあの柚ちゃんか?』

「えっと、はい」

電話口から聞こえてきた声に戸惑いながらも答える。

葵のお父さんイコールうちの会社の社長だし。
今までは会社の社長として普通に接していたけど、葵のカミングアウトで親子だと聞かされ衝撃を受けたばかりだ。

こういう場合、社長に話す時のような感じでいいのか、葵のお父さんと認識して話せばいいのか考えてしまう。