キモチの欠片


何とかこの話題から早く離れたくて違う話を振ってみた。

「今日は仕事早く終わったんだね」

「あぁ。だから、ゆずと一緒に飯でもと思って電話したけど全然出なくて仕方なく一人で帰っていたらお前が男と話しているところに遭遇したんだよ」

話を逸らしたつもりが、まだ振り出しに戻ってしまった。
バッグから携帯を取り出してみると、確かに不在着信がある。
それを見て申し訳ない気持ちになった。

「何か迷惑かけてごめんね」

「別に迷惑じゃねぇよ。俺の知らないところで他の男に声をかけられるのは最高にムカつくけど。頼むからあんまりフラフラするなよ」

「フラフラなんてしないよ」

「ならいいけど」

そう言って嬉しそうに笑った。
あたしを見つめる視線から、葵の想いが伝わってくるような感じがして胸がキュッと締めつけられる。

改めてあたしは葵のことが好きなんだなって実感する。
ずっと望んでいた本気の恋愛が出来ることが嬉しくて、この気持ちを大切にしたいなと思う。

付き合うまでは知らなかった葵の甘さ。
これから先もずっと、それがあたしだけに向けられたらいいのに……。

「あー、イライラしたから腹が減った。早く飯食いに、」

不意に葵の携帯が鳴った。
ポケットから携帯を出し、ディスプレイを確認して眉間にシワを寄せる。

「親父からだ。悪い、ちょっと出るわ」

あたしに一言断わりを入れ、電話に出た。