キモチの欠片


突然、葵は見せつけるようにあたしの肩を抱き寄せた。
そして、郡司さんに鋭い視線を向けたまま口を開く。

「なぁ、ゆずに何か用?」

「えっ、いや特に用事は……偶然、河野さんを見かけたから話しかけただけで……。あの、急に呼び止めてごめん。俺はここで失礼するよ」

郡司さんは目を泳がせながら答え、逃げるようにこの場を後にした。

それを見て安堵の息を吐く。
いや、安堵とかそんな呑気なことを言っている場合じゃなかった。
葵の不機嫌オーラが今度はあたしに向けられているのが分かり、どう対処しようか頭を悩ませる。

「おい、今のヤツはナンパか?」

「そんなんじゃないよ。取引先の人」

「その取引先のヤツがこんな時間に何の用だよ。どうせ、飯でも一緒に食いに行かないかとか言われたんだろ」

「どうして分かるの?」

あたしの言葉に葵は呆れたような表情になる。

「どうしてって大体分かるだろ。それに、“彼氏がいます!”なんて大声で言わなきゃいけないぐらいしつこく迫られてたんじゃないのか?」

「それは……」

言い訳しようにも図星過ぎて言葉に詰まってしまう。

「やっぱりな。そんなことだろうと思った。俺が来ただけで逃げ出すような根性ナシの男は眼中にねぇし、どうでもいいけど。それよりマジで無防備過ぎて危なっかしい。首輪でもつけてやろうか」

本気とも冗談とも取れる言葉にギョッとする。