キモチの欠片


手櫛で乱れた髪を直してるといきなりその手を掴まれた。


「変なストーカーじゃなくてホントによかった」

ギュッとあたしの手を包み込むように握り直し、噛み締めるように呟く。


確かにそうだよね。

知っている人で、しかも話の分かる人だったからよかったけど、これが話の通じない人だったらどうなってたことか……。
考えただけでゾッとする。


そういえば。

「就業規則とかよく見てたよね」

「あぁ、あれか。ハッタリだよ。警察とか就業規則とかそれらしいことを言えばビビって納得するかなと思って」


あっけらかんと言う葵に、アングリと口を開けた。
せっかく葵のこと、すごいなと感心してたのにハッタリだったとは思わなかった。
機転が利くというかなんというか。


「そうだ!問題は解決したし葵のマンションに行く必要はなくない?」


思ったことを口に出すと、葵はジロッとあたしを睨み眉間にシワを寄せる。


「なんだよ、それ。俺はその気になってたのに」


頭の後ろで腕を組みながらブツブツと文句を言う。

その気ってどんな気よ。
葵に迷惑をかけるのが嫌だから言ったのに。

人の気も知らないで、と小さく頬を膨らませた。