「そ、それは気のせいだと思いますけど。少し離れてもらえますか」
心臓がバクバクと激しく音を立てる。
エレベーターの機械音だけの静かな空間に、この鼓動が聞こえそうなぐらいだ。
なんでこんなことになってるの。
あの話はもう終わったと思っていたのに。
眩暈を起こしそうになる。
「無理。お前が俺を見るまで離れない」
勝手な事を言ってあたしを追い詰める。
本当にやめて欲しい。
何であたしが葵を見なきゃいけないのよ。
それより、こんなところを誰かが乗ってきた時に見られたりしたら変に誤解されそうで困る。
「羽山さん、人が乗ってきたら……」
ドンッ……
葵はエレベーターの壁を右腕で叩き、あたしを囲うように両手を壁につける。
「葵だ。羽山じゃねぇだろ。昔みたいに呼べよ。なぁ、ゆず。ちゃんと俺を見ろ」
あまりの迫力に身体がビクッと震える。
そういや、これって“壁ドン”ってやつじゃ……。
女子は胸キュンしたりするけど、あたし的には恐怖以外の何物でもないわ。
それより葵の言動は俺様で偉そうなのに、どうしてそんな切ない表情であたしを見下ろすの?



