キモチの欠片


ブルブルと頭を振り、さっきの葵の言葉はなかった事にした。
あれは強引に向こうが言っているだけで約束はしていないと自分に言い聞かせる。

食堂を出て早足にエレベーターホールへと向かいカチカチと数回下ボタンを押した。




六、七、八……、来た。

チン、という音と共に扉が開くと五、六人ぐらいの社員の人たちが降りてくる。


邪魔にならないよう端に避け、全員が降りるのを待ってエレベーターに乗り込み〈閉〉のボタンを押した。

扉がゆっくりと閉まり掛けた時、向こう側に人影が見えた。


人の腕が伸びてきて扉が閉まるのを阻止したのは、


「間に合ったか……」


葵だった。


なんで追いかけてきたのよ。
苦々しい気分になる。


あたしは一階のボタンを押し視線を合わさないようにエレベーターの隅に身を寄せ俯くと葵が近寄ってきた。


「ゆず、どうして俺の目を見ないんだ」


百八十㎝はある身長の葵がそばにいるだけで圧迫感があり、息苦しくなる。

あたしの身体が危険信号を発していた。