キモチの欠片


「晩飯でも一緒に行かないか」

「えっ……晩飯?」

葵の言葉に眉間にシワが寄る。
まさか食事に誘われるとは思わなくて、一瞬聞き間違いじゃないのかと。


「そう。柚音と行きたい」


真剣な声色で言うので冗談ではないみたい。
だけど、


「あ、いや……それは遠慮しておきます。せっかくのお誘いをスミマセン。失礼します」


トレイを持ち上げ返却口に向かう。


「ゆずっ、早めに仕事を終わらせてエントランスで待ってる。来るまで待ってるからな」


背中越しに葵の叫び声がし、足を止めた。

時間は十二時過ぎ、だんだん人も集まりだしたのにあんな大声出すなんて信じられない。



早くここから立ち去らなきゃという思いで振り返ることもなく足を動かす。


そんなことより葵があたしの事を“ゆず”って呼んだ。

懐かしさで胸が苦しくなる。
あたしは葵からそう呼ばれていた。

それが避けられ始めてからは名前すら呼んでもらえなかったんだから……。