キモチの欠片


誰と言われてもなぁ。

「朔ちゃんだけど……」

「だから朔ちゃんは誰なのって聞いてるの」

遥はあたしの肩を掴んでユサユサと揺する。

あまり揺らさないでよ。
いろいろシェイクされてやばいことになるから!


「だから朔ちゃんは……うっ、気持ち悪っ」


慌てて口を押さえた。
ヤバイ、これは吐きそう。


ドサッ、となにかが地面に落ちる音がしたと思ったら舌打ちが聞こえた。


「チッ、柚音っ早く来い。いいか、まだ吐くなよ」


朔ちゃんがあたしの腕を掴み身体を支えるようにして、さっきまでいた居酒屋の中のトイレへ向かう。

「すみません、トイレ借ります」

朔ちゃんは店員に断りを入れ、あたしをトイレの個室に促す。


「うぅ、ぎもぢわる……」

トイレの便器に頭を突っ込むようにリバース。

朔ちゃんは黙ったまま背中を擦ってくれる。

間違いなく今日は厄日だ。
遥たちは呆れて帰っただろうな、と頭の片隅で思った。