運転手さんにお礼を言い、病院に駆け足で入る。

受付の人に案内された場所は


手術室の前。


しばらくして、30代くらいの若くて、俗に言う”イケメン”の男の人が出てきた。

「あなたは患者さまの家族の方ですか?」

「は、はい。娘です・・・」

誰もいない廊下に私と医者の声だけが響いて、それがドラマみたいで私の緊張感を高ぶらせる。

「年齢は?」

「中1です。」

「他のご家族様は?」

「私の父が後で来ます。」

「そうですか。では御話がありますので、こちらへどうぞ。」

連れてこられたのは、机が1つあり、対面する形で椅子が並べてある、狭い部屋。

「どうぞ。」

そう言われて私は椅子に腰かける。

「お母様から持病について聞かれたことはありますか?」

「全く無いです。」

母さんからそんな話を聞いた事は1度も無い。

「では、はっきりと申し上げますが、お母様は大腸ガンです。末期で、あと半月生きられるかどうか」

が、ガン・・・・・・・・・・・・・・・・!?


目の前が真っ暗になる、っていうのはこういうことなんだと思った。

「あ、あの・・・意識は、戻るんですか?」

「一時的には」

涙が溢れてくる。もう何で?私何か悪いことした?

でも、この人は悪くない。母さんのために尽くしてくれたんだから。

必死で涙を拭っていると、横からその人に肩を抱かれた。

「辛いね。ごめんね。」

「いえ・・・」

私が泣きやんだのを見て、

「俺、基咲翔季(もとさき しょうき)。何かあったらいつでも言ってね。」

「え・・・基咲・・・?も、もしかして基咲峻くんのお父様ですか?」

「お、そうだよ。峻の知り合いかい?」

基咲さんは私の気分を少しでも良くするためか、話をふくらませてくれる。

「あ、知り合いというか、学校が同じで部活も同じなんです。」

「へえ、じゃあ、あなたも陸上やってるんだね。」

「はい。あ、私の名前は長政空兼です。母の名前は海兼(みかね)です。」

「じゃあ、空兼ちゃんも冷静さが戻ったみたいだし、お母さんの所へ行く?お母さんの意識が戻るのは明日になるけど。」

「はい。」

なんて言ったものの、私は冷静さなんか取り戻していない。混乱しまくってる。