病室を出たところで成柚を抑えていた手をほどいた。

「何すんのよ、空兼!!」

成柚はまだ怒ったままだ。

「ごめん。成柚。腹が立つ気持ちも分かるけど、もう少し南月の気持ちも考えてほしい。」

「偉そうに。」

「じゃあさ、もし成柚が南月の立場だったらどんな気持ちになる?私だったら、相手は悪くない、って分かってても、やり場のない怒りと苦しみを その相手にぶつけちゃうかも。成柚はそんなことない?」

「・・・っ!!」

「あっ成柚!!」

成柚は外へ走って行った。私が追いかけようとしたとき・・・

ガンガンガン!!

何か、金属が雪崩を起こすような音がした。振り返ると・・・

「南月!!大丈夫!?」

南月だった。もしかして、目が見えないのに、ここまで追いかけてきてくれたの!?

私に抱き起こされながら南月は言った。

「成柚のこと怒らせちゃった・・・さっき、足音がしたけど、あれは成柚が走って行ったんでしょう?」

さっきの南月からは想像できない穏やかな声だった。

「うん。そうだね。成柚は走って行っちゃったね。」

私も落ち着いた声で話す。

「さっきはごめんね。空兼と成柚は何も悪くないことぐらい分かってたのに。でもね、この辛くて苦しい気持ちを誰かに聞いてもらいたかったの。結果的に空兼と成柚を怒らせちゃったけど。」

「私は怒ってないよ。」

これは本当の気持ち。

「本当?ありがとう。成柚のこと追いかけなくていいの?」

「うん。成柚は根はすごく優しい子。それは南月もよくわかってるでしょ?だから、しばらく そっとしておけば何かに気づくはずだよ。」

「そっかあ・・・そうだよね・・・」

「じゃあ空兼、一緒に屋上に来てくれない?何で自殺したか、全部話すから・・・」

南月の声は震えていた。

「うん。いいよ・・・」

私は南月と一緒に屋上に行った。

普通は驚くんだろうけど、今日の私は何故か不思議なくらい冷静だった。

南月は虐待を受けていたんだって。あのとき見えたアザは虐待によるものだったんだね。もっと早く気付いてれば良かったね・・・ごめんね・・・

そう思うと涙が出てきた。

「空兼、泣かないで。この話、続きがあるんだけど、聞いてくれる?」

私は大きく頷いた。