眠りについてからしばらくたった頃だった。

玄関の鍵ががちゃがちゃなって、ぎっとドアがきしんだ。
人の入って来る気配で少しずつ頭が醒めていく。

「ただいま」

布団の中のわたしの頭に向かって、シンゴの声がした。
「うぅ、おかえり」

わたしはそれだけやっと言って、またうつらうつらと眠りに戻ろうとした。

眠りに落ちる前にかこん、とプルタブを開ける音と、ごっごっと勢いよく喉の鳴る音がした。
わたしはそれを聞きながら、布団の中で少しだけふっと笑って、そして朝まで起きることはなかった。

※※※※※

ミカコの携帯のアラームが聞こえる。

低血圧はオレとミカコの万年病?
だから二人とも朝はなかなか起きられない。

オレの腕はミカコの腰に無造作に置かれていて、それを振り払うように携帯の居場所を探している。一回止まる。

ミカコはこうやって、もう間に合うか間に合わないかギリギリのとこまで寝るから、朝は結局慌ただしい。

オレはそんなことにかまえる余裕もなく、ただ貴重なミカコと睡眠時間をむさぼっているだけだった。

「今日、仕事何時から」

遠くから聞こえる。
残念ながらオレの脳には届いていないんだけどね。