そっと扉を閉じた少女は、静かに部屋の中心へ歩み寄る。


「レナール皇太子殿下…。
先生が放課後ここに来るように仰ったのですが、わたくしにご用でしょうか…?」


緊張しているのか、少女は俯いたままだった。
眺めの前髪がその表情を隠している。


気弱そうな彼女の様子に何と声をかけたものかと躊躇っていると、変わりにヨルノが切り出した。


「突然呼び出してしまって驚かれたでしょう。

どうか落ち着いて、楽にして下さい」

「はい、ヨルノ様…。
すみません…」


ちなみにヨルノも大概端正な顔立ちをしていて、女子生徒の人気が高い。
しかも彼女にとっては我々は上級生。

お前が言うな、という話だった。


「実は最近校内で不審な事件が発生しています。

何者かがレナール殿下を盗撮し、写真を売りさばいているのです。

これについて、何かご存知ないですか?」

「あ…そういえば、クラスのだれかがレナール様の写真を持っていました…」

「あなたは持ってはいないんですか?」

「そんな畏れ多いもの、わたくし…持てません…」

「正直に言って下さい。
写真を売りさばいているのは、あなたではないんですか?」

「ヨルノ、待て」

強引な奴だ。
最初に緊張するなとか言っておきながら、ハナから犯人と決めつける気100%である。

探偵小説の読み過ぎだ。
こいつには任せていられない。

「すまない、ミス・ベカルマン。
別に君を問い詰たい訳じゃないんだ。
許してくれ」

「レナール様…」

少女はなお俯いたまま、小さな声で返す。


どう見たってギラギラしながら札束数えてそうなタイプではない。

やはり外れだったか。


俺は彼女に優しく話しかけた。

「実際ヨルノが言ったような事件が起きてて、やっぱり私も盗撮されてばかりだと気分が良くないんだ。

君を呼んだのは、お父上の影響で商売が得意って聞いたからなんだ。

君のように有能だとこんなことも可能なんじゃないかと思ったんだが…どうやら勘違いみたいだね。

こんな大人しいレディが犯人なワケないよ、ヨルノ」

「そう…ですね」

ヨルノも渋々同意していた。
あまり苛めるのはさすがに良心が痛むらしい。