「写真や金の受け渡しは指定の隠し場所を使い、顔を合わせずに遣り取りが成立するそうです。
実に巧妙な手口に隠蔽され、犯人を割り出すまでには至りませんでした。
困った事態なんですが――」
「その割にはまるで困った顔に見えないぞ、ヨルノ」
「はは、まぁ証拠がないだけで見当は付いてるんですけどね」
軽く笑うヨルノ。
全く、この男は調べ物となると優秀なことこの上ない。
正直俺の従者なんてやらせるのが勿体無いくらいに。
「で、誰なんだ。
犯人は」
「はい。
犯人は恐らく貿易商の一人娘、カドリ・ベカルマンです」
「貿易商?
貴族階級でか?」
貴族というのは普通代々所有している領地からの収入で暮らすものだ。
「領地経営は他の者にまかせて貿易を営む変わり者です。
カドリ・ベカルマンは優秀な成績を修めながら、父に学んだノウハウを生かして既にいくつか商売を営んでいます。
商売のイロハに通じる彼女なら、こんな大規模かつ込み入った犯行も可能かと」
目を輝かせながら犯行犯行と繰り返すヨルノは探偵小説の大ファンだ。
調べ物好きもそのあたりから来ている気もする。
「ヨルノ、随分と詳しいがお前、彼女を知っているのか?」
「会ったことはありません。
ただ、変わった生徒のプロフィールは頭に入れているので。
すぐにピンときました」
「…何故またそんな面倒なことを?」
「当たり前でしょう。
レナール様をお守りするためです」
趣味です!の間違いじゃないのか?
…と思ったのは黙ったおくことにした。
将来は保安官を目指すのがいいと思う。
「とにかく、一度会って話を聞く必要があるな。
さすがに王子直々に名指しで呼び出しされれば、正直に話す気になるだろう」
「もし違っていたらどうします?」
「その時はその時だ」
そう言って俺はほくそ笑んだ。
売りさばく方は愉快だろうが、金儲けに利用される方はいい気分がしないものだ。
直々にツラを拝んでやろうじゃないか。
次の日の放課後、カドリ・ベカルマンは学園長室に呼び出しを食らった。

