ただでさえわずらわしい毎日。

そんな毎日を更にウンザリさせるような事件が、ある日降りかかった。


「レナール様」

「どうした」

「お話があります」

そう俺の傍らから声をかけるのはヨルノ・プラット。
同じ学級に在籍するクラスメイトにして、幼い頃から俺に仕えてくれている優秀な従者だ。

ヨルノはやや困ったような顔で俺を見ていた。
どうやら歓迎し難い類の厄介事がお出ましらしい。

「これをご覧下さい」

「何だ…写真?」

渡されたのはセピア色の写真だ。

やや鮮明な画質から、いいカメラを使っていることがわかる。

白黒の影がかたどっている人物は――俺だ。
間違いない。

「撮られた記憶がない」

「盗撮でしょう」

「これをどこで?」

「学園の女生徒から没収しました。
どうやら同じ物が他にも出回っている様子です」

「つまり写真を配っている生徒がいる訳だな」

こっそり盗撮する失礼な者はたまにいたが、たいていは自分だけがこっそり持っているものだ。

君主制のこの国で、しかも王家を敬う貴族の子弟が集う学園で、盗撮した王子の写真を配り歩く人間はそういない。

「またどうして、私の写真なんかがバラまかれるんだ」

「それが…写真は別の者から買い取ったものらしく」

「買い取った?」

「はい。
写真を売った生徒も取り調べたのですが、正体不明の人物から依頼されているだけとの一点張りで…」


話によると、その生徒は泣きながら自分のしたことを打ち明けたらしい。

悪い事だとは思いながら、数々の写真に目が眩んで引き受けてしまったそうだ。

俺の写真なんて手に入れて何が楽しいのか、さっぱり解らないが…。


「同じような依頼を受けている生徒が他に複数名いる模様です」

「いつも思うが、お前は本当に仕事が早いよな」

「従者として当然の務めです」

言葉じりこそ謙虚だがその顔は誇らしげだ。

有能で表情豊かな片腕を、俺は結構気に入っている。

「で、犯人はもう見当ついてるんだろ」

「それが犯人は非常に巧妙な手段を用いており、容易には糸口を掴ませません。

大量の写真を躊躇いなく売りさばいているところから、犯人は純粋に金欲しさで行動しているものと思われます」


そこは俺も想像がついた。

この国にも一定数存在する、王室への畏れを欠片も持たないタイプに違いない。