「お早うございますレナール皇太子陛下。

ご気分は如何でしょうか?」

「え…カドリ?
カドリなのか!?」

「カドリですが」


カドリとの約束の日。

言われた通りベカルマン邸に向かうと、そこで見覚えのないお嬢さんに出迎えられたのだ。

ふわふわしたキャラメルブラウンのロングヘアに愛らしい顔立ち。

町娘らしいワンピースに白いエプロンをつけ、頭に紳士風のキャップを被ったユニークなファッション。

手足はスラリと長く、ぴったりした服に豊満な胸が強調されていたりする。


…普段の地味すぎる姿と結びつけるのに、たっぷり10秒以上かかった。


「…普段の5倍は魅力的だよ」

「…褒められているんでしょうか?」

「うんかなり」

「それは光栄です。
仕事の時は、明るく見える方が得なんですよ」

そう言って勝ち気に微笑するカドリは悔しいながらかなり可愛い。

普段接することのない庶民的な、開放感のある美少女だけに尚更だ。

案外自分は上品に着飾った貴族令嬢よりもこういうタイプの方が好きなのかも知れない。

「殿下、今日は本当にいいんですね?」

「今更ダメなんて言わないだろうね」

「失礼なことをしても、不敬罪で私の首が飛んだりしませんよね?」

「君は私をなんだと思ってるんだ」

「約束ですよ?」

「あぁ、条件は了承済みだ。
それについては一切文句を言わないよ」

カドリはやたら慎重だった。
俺は信用されてないのだろうか。

「じゃあ、これに着替えて下さい」

「着替え?」

「そんな上品な服じゃ貴族だとバレます」

そう言われ、俺は別室で着替える。

なるべく地味な装いを意識したつもりだったがダメだったようだ。

今まで着たことのない感じの服に袖を通すとカドリは満足したようだった。

「それならギリギリ許容範囲ですね。

では1日の予定を。


まずレナール様は、今日1日この屋敷の中で貿易学を学んで過ごすと言う設定になっています。

屋敷で働く使用人全員がそう証言するようにしています」

「準備がいいんだね」

「当然です。
相手は王子様なんですから」