渡辺綱を目標に定めたが、見破られて左腕を斬られた。
左腕は取り戻したが、奴等には稀代の陰陽師、安倍晴明が付いているようだ。

「茨木童子様。我等にも何か出来ましょうか?」

頼光等に倒された土蜘蛛の兄妹が側に控えていた。無念を晴らしたいが為に茨木童子に仕えている。

「臣か。妾は眠りに着く。」
「如何程のご予定でありましょうや?」
「奥姫、妾は酒呑の子を身籠っておる。長き眠りになるであろう。その間、生気を妾に運んでくれ。」
「かしこまりました。」
「これから戦乱の世を経て、この国は堕落する。そして頼光等の転生が現れた時、妾は子を産む。人の生気には事欠かない。それまでは静かに時を待て。良いな?」
「我等にお任せください。何時なりとお待ち申し上げております。」

寝首をかいて茨木の力を奪う事は、この兄妹は考えない。寝ていてもそんな事をすれば容赦なく殺されるだろう。
それだけ力の差が歴然としているからこの兄妹も茨木に仕えているのだ。

「では臣、奥姫、任せたぞ。」
「おやすみなさいませ。」

こうして茨木童子は眠りについた―



―時を待て、1995年。
古い洋館の地下にコンピューターに囲まれた茨木童子がいた。

「妾が眠っておる間に随分変わったものよのぅ。動かずとも世界を操れるわ。」

酒を飲みながら軽快にそれ等を操っている。
目覚めたのは3年前。大きな腹を抱えて、先ずは自分の砦を築いた。
力は以前にも増していた。世の中が負の気に満ちているので力は面白いように集まる。仲間逹の血肉も完全に同化し、驚異的な力を生んでいた。
人間の怨恨や嫉妬に手を貸してやると手足となる信者と金が世界中から集まる。

「もう直ぐ妾の子が産まれる。人間共を我等に跪かせてやろう。」