二人に母が挨拶すると、紗季も会釈した。未季はずっと瞳を閉じたままだ。

「気にせんといてください。この目ぇは、巫女の力を無くさんで紗季を産むのと引き替えにしたものやから。」
「そう…なんですか…」

奈都は複雑な顔をして応えた。頭を過るのは今も目覚めない母の姿だ。

「元々ウチはお伊勢さんにおったんですけど、神様から御告げがあったんですわ。京都で卜部季武の転生を産みなさいって。それが紗季ですわ。でも巫女は清い身体やないと力が無くなってしまう言うたら、要らないと思うのはどこだ?言うんで、目ぇや。っていうたんよ。」

そう言う姿は一片の迷いも無かった。目では見えないモノを見ているようだ。

「源頼光が転生、水原頼子さん。渡辺綱が転生、渡辺奈都さん。坂田金時が転生、坂田加代さん。卜部季武が転生、卜部紗季。もう一人で揃いますなぁ。それは貴女方が京都に居る間に現れる碓井貞光が転生、碓井輝さん。そやけどこの人は仲間にするのは難しいなぁ。」
「それはどういった意味ででしょうか?」

名前まではっきり告げられては信じない理由がない。頼子は未季の言葉に集中した。

「何て言うたらええんやろ…集団行動が嫌いみたいやなぁ。でも正義感は強いみたいやわ。」
「いつ碓井輝に会えますか?」
「それは紗季に案内させますわ。でも戦いの最中になるやろから、気ぃつけなぁ?」

そこまで言うとフッと遠くを見るような顔をすると、唯一の灯りの火が消えた。

「あかん!来よったで!紗季!急いで行きなさい。」

灯りが消える前に紗季は出口に向かっていたらしく、扉が開いて光が入る。

「あんたら、ボサッとしてんと行くで!」
「「失礼します。」」

きっちり未季に挨拶をして素早く動く。階段を下りると紗季がタクシーを止めていた。