頼子と奈都は京都にいた。

「全く、何故こんな時期に修学旅行なんだ?」
「まぁ良いじゃない。前世所縁の地だし、色々回ってみましょうよ。」

そのつもりで下調べもしてある。ただ暗雲の垂れ籠める空とジメジメした空気が梅雨時である事を嫌でも教えてくるのだ。
そして碁盤の目と称されるだけあって、初めて訪れる者を迷宮に誘う。つまり二人はクラスメートともはぐれ、迷子になっていた。

「ちょっとそこのあんたら、こっちおいでぇな。」

同じ年頃だろう。巫女姿の娘が二人を呼んでいる。

「そんなん疑わんでも怪しいもんと違うわ。ウチの母さんが連れて来いっていうとんねん。」
「何だ?神社の呼び込みか?」
「そうそう。今、めっちゃ不景気やねんな~…て、そんなん違うわ!」
「頼子!御札見て!」

奈都の言葉に咄嗟に御札を確認すると、一枚が光っている。

「そういう事やから、話でもしていかんか?」

知っていたかのような言葉に興味がわいた。それに何故か御札の試練は彼女にはないらしい。

「勿論話はあるが、何故あんたじゃなくて母親なんだ?」
「まぁ、来たら分かるわ。ついてきてな~。」

自分の御札を着物の懐にしまうと、先に立って階段を上がり始める。後を追って上がっていくと、間もなく小さな鳥居と神社らしき建物が見えた。

「母さん、連れて来たで~。」

お社に入ると、神聖な空気が頼子と奈都にも感じられた。
ご神像に向かっていた巫女がこちらを向く。

「そう。ありがとう紗季。次はもう少し静かに入ってきてな。」
「すみませんでした。気ぃつけます。」

急に神妙に頭を下げる。

「初めまして。ウチは巫女の卜部未季と申します。御二人をお連れしたんが、娘の紗季です。」